CQ3 放射線療法

CQ3-2局所進行切除不能膵癌に対し化学放射線療法の標準的な併用化学療法は何か?

推 奨

局所進行切除不能膵癌に対して,化学放射線療法を行う場合の標準的な併用化学療法は5─FUである(グレードB)
ゲムシタビン塩酸塩との併用については積極的に推奨するだけの科学的根拠が十分ではないものの,その有用性を示唆する報告もあり,安全性が確認されたレジメンにおいて十分な説明を行い同意を得たうえで実施することは,選択肢の1つとして考慮されてもよい(グレードC1)

エビデンス

    局所進行切除不能膵癌に対して,化学放射線療法は有効な治療法として推奨されている(CQ3─1)が,その際の併用化学療法について,これまでに得られているエビデンスを検証した。
     5─FUは古くから消化器癌の治療薬として用いられてきたが,放射線の増感剤としてもその有効性が知られており,多くの固形癌に対して併用療法が試みられてきた。切除不能膵癌の標準治療として化学放射線療法が推奨される根拠となった3つのランダム化比較試験においても5─FUをベースとした化学療法が用いられており(CQ3─1),また米国のNCCN Clinical Practice Guidelineにおいては,50〜60Gy(1回1.8〜2.0Gy)の放射線療法に5─FUの同時併用が推奨されている。
     しかしながら,その具体的なレジメンについてはいまだ研究段階であり,一定のコンセンサスは得られていない(CQ3─1)。5─FUはその曝露時間が長いほど,放射線に対する増感作用が増強することが知られており,放射線との併用療法において,持続静注(protracted venous infusion:PVI)がボーラス静注より効果の面で優れていることが,直腸癌(Ⅱ〜Ⅲ期)に対するランダム化比較試験においても示されている。これに基づき,膵癌の治療においても,5─FU持続静注と放射線とのさまざまな併用療法が試みられてきた。しかし,ランダム化比較試験を行うには至っておらず,後ろ向きの比較検討においては,治療強度,生存期間において,持続静注の優位性を示すことはできなかった1)(レベルⅢ)
     一方,2006年,膵癌に対して新規に保険適応が認可されたS─1は,5─FU持続静注と同様,血中5─FU濃度をより高濃度でかつ長時間持続させる作用をもち,他の癌種においても放射線治療との併用効果が期待される薬剤である。膵癌に対する放射線治療との併用については,現在,複数の臨床試験が進行中である。
     なお,cisplatinについても,放射線増感作用を期待し併用が試みられたが,cisplatin単剤少量連日投与での同時併用においては毒性が強く,有効性は認められなかった2)(レベルⅢ)
     5─FUをベースとした多剤併用療法においても,さまざまな臨床研究が行われてきた。5─FUボーラス静注(400mg/m2),leucovorin(20mg/m2),cisplatin(20mg/m2,day1〜4)を4週毎,6コース施行し,化学療法の2,3コース中に放射線治療(1回1.8Gy,総線量55Gy)を同時併用したレジメンにおいては,生存期間の中央値が14カ月,無増悪生存期間10カ月と良好で,有害事象も容認できる範囲であった3)(レベルⅢ)。しかしながら,5─FUの持続静注(1000mg/m2/day)とstreptozotocin(300mg/m2,day2〜4),cisplatin(100mg/m2,day1)に1回1.5Gy,1日2回,総線量60Gyの加速多分割照射による放射線治療を同時併用した後ろ向き研究では,腫瘍増悪までの期間延長の可能性が示唆されたものの,完遂率が37%と低く,そのままでは認容され難いレジメンであった4)(レベルⅣb)。5─FUとcisplatinの組み合わせについては,5─FU(600mg/m2,day 1〜5,PVI),cisplatin(100mg/m2,day2)を放射線治療(1回2Gy,総線量の中央値は42.5Gy)に併用したレジメンにおいて,特に重篤な有害事象を認めなかったものの,治療効果は生存期間の中央値9カ月,増悪するまでの期間中央値は4.4カ月と,過去のGITSGの第Ⅲ相試験における5─FU併用化学放射線療法の成績をさらに下回るものであった5)(レベルⅣb)
     ゲムシタビン塩酸塩は5─FUとのランダム化比較試験の結果,切除不能膵癌に対する一次化学療法と位置づけられているが,放射線治療との併用については,まとまった比較試験がなされていない。第Ⅱ相試験の結果,少量ゲムシタビン塩酸塩(250mg/m2,weekly)と放射線治療(1回1.8Gy,総線量50.4Gy)の同時併用において,生存期間の中央値は9.5カ月6)(レベルⅢ),ゲムシタビン塩酸塩(300mg/m2,day1,15,29)と5─FU(350mg/m2,PVI),放射線治療(1回1.8〜2.0Gy,総線量50〜50.4Gy)の併用においては生存期間の中央値13.6カ月7)(レベルⅢ),導入化学療法(ゲムシタビン塩酸塩300mg/m2,5─FU 500mg/m2,3投1休)2コース後,SD以上にゲムシタビン塩酸塩(350mg/m2,weekly)と放射線治療(1回1.8Gy,総線量の中央値50.4Gy)を同時併用したレジメンでは,生存期間の中央値が11カ月であった8)(レベルⅢ)。ゲムシタビン塩酸塩(1000mg/m2,weekly)に対し,放射線の1回線量をdose escalationした第Ⅰ相試験の推奨用量は1回2.4Gy,総線量36Gy,生存期間の中央値は11.6カ月9)(レベルⅢ)であった。当レジメンに対し,resectableと判断された16症例と,borderline─resectableと判断された9症例を含む36症例に対する多施設共同第Ⅱ相試験の結果が報告されており,1年生存率は73%であった10)(レベルⅢ)。この試験では,肉眼的腫瘍体積のみをターゲットとした小照射野での放射線治療に(CQ3─3),full doseのゲムシタビン塩酸塩を同時併用している点で特に注目されるものであり,さらなる検証が待たれるところである。
     以上より,現時点において,局所進行切除不能膵癌に対して化学放射線療法を行う場合,ゲムシタビン塩酸塩との併用については行うことを考慮してもよいが,十分な科学的根拠がなく,標準的な併用化学療法としては5─FUを推奨する。

明日への提言

膵癌は早期に遠隔転移をきたす率が高く,局所進行切除不能膵癌に対する治療においては,局所治療と全身療法とのバランスをいかにとるかが,生存率向上の鍵と考える。レジメンの完遂率,有効性については,放射線治療の線量や照射野の設定,線量分割,照射方法によっても大きく影響されることに注意されたい。今後,併用する化学療法,併用のタイミング等についてさらに検討を進めるとともに,過去20年間における放射線治療技術の進歩を正しく反映させることで,両者の有効性を最大限に引き出す努力を続けていく必要がある。

引用文献

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検索式

 
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医中誌
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検索日 2007/5/22
検索式
#1
(膵臓腫瘍/TH or 膵臓腫瘍/AL) or (膵臓腫瘍/TH or 膵臓癌/AL) or (膵囊胞/TH or 膵囊胞/AL) or (膵管癌/TH or 膵管癌/AL) and (PT=会議録除く)
#2
非切除/AL or 切除不能/AL or 手術不能/AL and (PT=会議録除く)
#3
(放射線化学療法/TH or 放射線化学療法/AL) or (放射線化学療法/TH or 化学放射線療法/AL) and (PT=会議録除く)
#4
腫瘍多剤併用療法/TH or 併用療法/TH or 併用/AL and (PT=会議録除く)
#5
#1 and #2 and #3 and #4
検索件数19件
(2)
PubMed
検索年限 出版年1990〜2007/4/30
検索日 2007/5/22
検索式
#1
pancreatic neoplasms
#2
“non operative” or nonoperative or “in operative” or inoperative or unresectable
#3
radiochemotherapy or chemoradiotherapy
#4
meta─analysis[pt] or randomized controlled trial[pt] or controlled clinical trial[pt] or clinical trial[pt]
#5
combi*
#6
#1 and #2 and #3 and #4 and #5 and Limits:Entrez Date from 1990 to 2007/04/30, English, Japanese, Humans
 
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